つぎのもの

かたちになる前のなにか

Something new is wonderful.

いいね

 21世紀の始めのことらしい。ソーシャルネットワークを通じて交流することが全盛期を迎えていた。その中で互いの投稿を讃えるため、あるいは羨望の思いを伝えるため、いいね、というリアクションが推奨されたことがあった。いいねをだすか出さぬかはもっぱら主観によったがこれをもらうために人は粉骨砕身し、些細なことに右往左往した。当初はいいね、だけだったリアクションが、残念だね、惜しいね、かわいそうだね、悪いね、遺憾だね、など様々な感情表現に対応したがそれでも語れないものがあるのが事実というものだ。
 21世紀の半ば、こうしたリアクション表現に画期的な変革が起きた。読んだ後の感情をSNSアプリが操作者の表情から読み取り、128種類のアイコンに変換するシステムが普及したのである。
 そのあまりにも多いアイコンのため、リアクションの意図は露骨には伝わらない。羨望と憧憬の中に嫉妬や劣等感が渦巻いている場合などもきちんと表現される。書き手の方はそれらが反映されていることを実感するが、受け手は明確には分からない。わかりにくいアイコンは感情表現の複雑さを表現するのにふさわしいものだったのだ。
 ただ、最近よく言われることだが、こんなに多くの表情マークはいらないのではないかという意見がある。私たちはそんなに複雑な感情はない。恐らく2の3乗か4乗の表情があれば十分だ。ほとんどのコミュニケーションをメディアを介して行われる現代においてはもしかしたら4通りでいい。すなわち「はい」「いいえ」「すき」「きらい」。これで十分なのではないかと。

mohamed HassanによるPixabayからの画像