つぎのもの

かたちになる前のなにか

Something new is wonderful.

感動的レストラン

 「ご注文はスペシャルランチでよかったでしょうか」
 ウエイトレスはかつて流行った若者言葉を使って話しかけてきた。スタイル抜群の彼女は身のこなしも雰囲気もあの頃と同じだ。もし私が今の状況を仮に忘れることができたなら、言ってしまったかもしれない。なかなか上品なサービスだ、だがよかったでしょうか、はやめた方がいいなどと。
 この店の店員には無駄な動きがない。見た目は二十歳代の美男美女ばかりだ。オーダーもサーブも遅滞なく行われ、清掃も的確になされている。時々巡回して水をつぎに来るときなどは魅力的な微笑みを投げかけてくれる。嫌味のない微笑みだ。しなやかな腰つきはセクシーですらある。
 それなのにこの店の客は彼らに対してあまりにもそっけない。むしろ何かを諦めたような表情を浮かべている。客同士の話はなされるがそれも事務的である。どんなに店員たちが心を込めたサービスをしてもまったく関心がないかのようだ。店員は無視され、ときには邪魔者扱いされる。にも関わらす彼らのサービスの質は落ちることがない。
 先程心を込めたサービスと言ってしまったがこれは少々感傷的な表現だった。彼らに心を求めるのは酷と言うものだ。自立型ロボットの彼らはそれぞれに人格というものがない。電力という血液が耐えない限り永遠に働くことができる。
 このタイプのレストランができた頃は随分話題になった。長い列ができたこともあった。それがまたたく間に全国に普及するともうこれが当たり前になってしまった。客たちがレストランに求めるのは安さとサービスの正確さであり、店員たちのふるまいには関心がないかのようだ。むしろ、ごくまれにおこるミスを貴重なものとして考えるようになったのである。


LuckyLife11によるPixabayからの画像