つぎのもの

かたちになる前のなにか

Something new is wonderful.

写本のしかけ

 つらつらかんがみるに主の書かれし文どもを写しまゐらすほど、こころいたきことなし。主の心いかばかり深からむこと推し量り難し。されば書かせたまふ本意を知らずして、いたづらにみづぐきのあとをなぞるのみなり。さらに心なく、ただ写しに写すこそあぢきなけれ。
 かかれば、主の書かれしままを写しとるにしくはなし、我思ふに主の書かれし紙を裏に返して版木に貼り付け、主の墨の跡のなきところを彫りに彫りて、彫り残りたるところに墨を塗りて逆さまにして紙を当てれば、主のみづぐきと変わらぬ墨つくことになるべし。次々これを行へばたちまち主の本に違わぬもの出で来る。定めしやすきことなるべし。
 こは我がはかなき夢にてうつつとはたがはむ。なれどいつしかかなはむと願ふなり。