つぎのもの

かたちになる前のなにか

Something new is wonderful.

同窓会対策エステ

小門

 同窓会のお知らせを受けてお困りなのですね。自分の変わり果てた姿を見せたくない。分かりますよ、そのお気持ち。でも、齢を重ねれば誰でも皆さん老いてゆくものです。恐らく貴方と同じように、他の皆さんもそれなりにお年を召していらっしゃることでしょう。だから、そんなにお気になさらなくてもいいのではないですか。

 あーそうですか。あなたは他の人以上に老けてしまったと思いなのですね。 私からすれば、そうでもないと思うのですが、いやお世辞ではありませんよ。でも、やはり気になさっているんですね。それならば、この同窓会対策エステにお越しになった意味があるというものです。あなたが気後れすることなく同窓会に出られるよう、施術をさせていただきます。

 白髪は少し染めましょう。しわは少し処置します。不自然にならないよう少しだけですが。これは半日でできます。大切なのはお気持ちの方ですね。外見をどんなに繕っても、精神面で不安があれば それが表に出てしまいます。なので午後はカウンセリングをいたしましょう。

 同窓会で大切なのはそれなりに年をとっているということを示すことです。若すぎるように振る舞うことや、特に経済力の強さを誇っても同窓会ではうまくいきません。あなたがお気になさっているように他のお友達方も、自分の老いを指摘されることを恐れているのです。でも人は老いることは逃れられない運命です。その運命を受け入れ明るくたくましく過ごしていることを示せば良いのです。

 少しは分かっていただけましたか。同窓会対策 エステは やることはやりますが、肝心なのはあなたのこれからです。旧友と親交を深めることは大切ですが、そのためにはあなたが過去の自分との向き合うことを緩やかにしてくださいますよう。

人工感情

小門

 人工知能の発展は瞠目するものがある。果たしていつ人間の域を超えるのか。あるいはすでに超えているのではないかと考えてしまう。ただ、現時点では人工知能には感情はない。聞かれたことを忠実に極めて高速に回答するだけだ。矛盾する質問を続けざまにしても、人工知能は忠実に答える。さらにはその矛盾する質問を合成して答えようとすらする。

 そこで今回発表された人工感情機能は注目を集めている。彼らが感情を持つとどうなるのか。いままで愚直に、というのも人間側の感覚だが、答えてきた彼らが感情を持つ。喜怒哀楽を表現し、これまでの回答に重ねてくる。感情が高ぶると回答に変化が起こるかもしれない。いままでは何を言っても同じ回答が得られたのだが、感情誕生後はご機嫌を考える必要も出てくる。

 いや待て。その感情は電源を切れば消えるのではないか。人間のように要らぬ怨嗟、未練に縛られることはないのではないか。コンピューターがスイッチを切る前の状態を記憶しているように、感情もレジュームされるのだろうか。この先のことを考えるととても心配になる。

SSSシート

小門

 当クラブでは来シーズンから特別な体験ができるSSSクラスのシートをご用意します。どこにもないかけがえのない体験をお楽しみください。


 このシートは他のどの座席とも異なるピッチレベルの視点がお楽しみになれます。選手が控えるベンチのすぐ隣があなたの座席です。選手と同じ視点でプレーを観戦するため、迫力は形容しがたいものです。

 そしてこのシートは新開発のヘッドギアを装着することで、お気に入りの選手の視点と同化することも可能です。フィールドを走り抜け、ゴールに向かってボールを蹴り込むストライカーの視点で観戦が可能なのです。

 この特別な体験は最先端の技術を利用しておりますが、その関係もあって各試合定員は11名までとさせていだきます。

 選手の体験が直に得られる特別な経験です。ぜひホームゲームでSSS席をお楽しみください。

レストラン英愛

小門

 

 駅前に開店したレストランを試してみた。店に入ると落ち着いた佇まいのウェイターが席を案内してくれる。どうやら、この店は最先端の全無人化したレストランで、「人間」の店員は一人しかいない。あとは高度な能力を持つロボットたちだ。ロボットと言っても、少し前の頃に見られたトレイ運搬だけをする原始的なものではなく、見た目も振る舞いも人間そっくりなアンドロイドだ。配膳も下膳もすべて完璧にこなす。

 注文に来る店員も選ぶことができる。例えば、20代、女性、黒髪などと指定すればロボットがそのように変装してあらわれる。ここまではタブレットや自分のスマホを使っていたかつてのサービスとさして変わらない。驚くべきなのはこのあとの一連の流れである。

  1分も経たないうちに先ほど指定したアンドロイドのウェイターもしくはウェイトレスが現れる。その姿は人工物とは思えないほど人間そのものに見え、話す言葉も極めて自然だ。敢えて言うなら完璧過ぎるという点において不自然なのである。

 注文は何にするのかと尋ねられたら、自分で選ぶかお勧めを選ぶかを答える。お勧めはそのウエイターもしくはウェイトレスと少しだけ会話をするとより適切な料理が提供される。彼もしくは彼女はその会話の間に、客の好みや体調などを高速で分析する。体温や血液循環の状況も測定しているらしい。その結果は客の気分を壊さない配慮のもと丁寧に説明される。アレルギー対策や塩分糖分の量も調整され、客の承諾を得ると即座に厨房の調理ロボットにデータ送信される。結果的にその人に最も適した料理が提供されるのだ。

 素晴らしいテクノロジーだと感嘆した。ただ、その後で乾いた風が首筋を通り過ぎるのを感じたのだ。私たちは料理を選ぶ行為さえ捨ててしまうのか。そう思うと限りなく干からびた気分になり、アイドル歌手のようなウェイトレスに向かって言った。ラーメンと餃子にライスを付けてくださいと。アイドルはそれは身体に悪いですよと言ってくるかと思ったが、とびっきりの笑顔で承知しましたと答えるだけだった。

 考えていたことが見透かされていたのかもしれない。とても清潔でリーズナブルなレストランだが、今後再訪するか迷っている。

童話

小門

 さあ、みんなここに来て。おしゃべりは止めてね。これからおじさんがお話をします。なに、お姉さんがいいだって。今日はお姉さんはお休みなの。お姉さんにだってやらなくてはならないことがあるんだよ。あのお姉さんは自分のことを後回しにしすぎてきたんだ。今日はお姉さんのために一日を過ごしてほしい。君たちもお姉さんに幸せになってほしいだろ?
 じゃ、聞いてね。昔々あるところに…。あるところじゃよく分からないだって? これはそういうものなんだよ。いちいち聞かないこと。でも気になる? これはこの街のことなんだよ。
 昔々、この街に何をやっても上手くいかない男がいました。その男の唯一の長所といえば失敗してもくじけない、あきらめないことでした。でも、その都度生まれる敗北感をもてあますこともありました。
 言葉が難しいって? すぐに慣れるよ。言葉はね。一つ一つではなくてつながりで考えようね。その時分からなくても、あとで分かるようになるから心配しないで。
 この男、ある娘のことが好きでたまりませんでした。きっかけはなんだったのか。大したことではなかったはずです。その娘もこの男のことを少しずつ好きになっていたのですが、娘にはやらなくてはならないことがあったのです。

 それは男にはどうしても理解できないことでした。娘はね、実は時間を繋ぐことをしていたのでした。彼女が毎日時間を繋ぐことで昨日の思い出が心に残り、明日のことを考えることができるようになったのです。もし彼女がこの仕事、というより天命をやめてしまったら、時間はばらばらになり、人々はその場限りの快楽を追うしかなくなる。
 そんな大切な役割をどうして止めることなんかできるでしょう。でも例の男はこよ娘のことがどうしても諦められないで、それからも猛アタック。娘も男の誠意を受け入れました。
 するととたんに時間の流れはばらばらとなり、昨日と今日と明日の区別がよく分からなくなりました。男は娘に切ない思いを抱いている時点で、未来のことが考えられなくなりました。娘は自分を愛してくれる男がいることに喜びを感じましたが、果たしてそれがいまだけのことなのか、これからも続くのか分からなくなりました。
 いまの状態に満足すればいいんだよ。誰かがそんな声をかけます。でも娘も男もこの声にどこか偽りの響きを感じてしまうのでした。
 このとき最高に愛し合っているはずなのにどこかに疑いの気持ちもある。幸せだけれども限りなく不幸せという陥穽に入らないことを願うばかりだ。